おかえり

もどってきちゃったのでおかえりです

6月21日「横浜線で待ってるね」

昨日は現場応援だった。

Twitterでも書いたけど、その前日にいきなり全体LINEでチーフ(私に仕事が一年目以下って言った人)から「まきこと〇〇(後輩女)は明日現場応援ね!」という半ば思いつきのようなLINEがそれも15時くらいに来ており、それを知らずに眠っていた私は、その現場についている同僚のおじさん(35歳)からの電話で起こされたのであった。

このチーフは人の休みや労働時間を管理しており、労働時間が240時間を超えると長文のLINEを寄越してくる。しかし、人の休みをいとも簡単に業務で潰すことには何の抵抗も持っていない。人の上に立つ人はだいたいそういうものである。

おじさんの話では前日打ち合わせがあるとのことだったが、結局それもなく、言われたのはただ「7時に横浜に来てください」というざっくりしたものだった。バカにしてんのか。

 

私の家から横浜は遠いので、始発に乗らないとその時間には着かない。始発に乗るために起きて、コンストを飲み、電車に乗って、ゆらゆら揺れていた。いつもなら眠くてどうしようもないのにそんな眠気も一切なく、めちゃめちゃ目が爛々としている。これは完全にキメ過ぎちゃったかもしれない。やばい。私はキマってる。

 

現場にはいつも15分前に着いている。なので今日も6時45分には着いた。

後から車に乗って、先輩とおじさんがやって来て現場を作ろうとしたんだけど、私は何も聞かされていないので立往生し、おじさんに何とかシーバーで聞こうとする。しかし、その度に「地図見てやってよ!」という先輩の理不尽な怒りが飛ぶ。だったら、最初にそう言ってくれればよかったじゃないか。ていうか地図もざっくりしたことしか書いていない。

そういう感じでおろおろしていたので、また外部のおじさんから白い目で見られる。悲しい。

 

現場が整うといろいろバタバタして、応援以上にいろいろ動き回った。ここの動きに関しては特筆することがないので飛ばす。

 

私の仕事は午前中までだったんだけど、かなり早く終わり、昼休みがその分早くなった。早くもう1人の応援と代わりたくて仕方なかった。と、思っていると意外とすぐに応援が来たので、私はあっさり退散することができた。一刻も早く現場から去りたかった。

 

実はこの現場、私の父方の祖父母の家の最寄りから電車で15分くらいのところにあった。私は正直この祖父母に対して何の感情も抱いてこなかったし、母親は私が小さい頃に祖父母に散々嫌がらせをされた、という理由から非常に嫌っていた。なので私もあまりいい感情を持っていなかった。

 

しかし、何を思ったのか私は祖父母の家に電話をかけた。こんなに近くに来ることはもうないような気がしたからだ。

電話をかけると祖母が出て、私がもう某駅に着いて電車に乗るところだと伝えると、「じゃあ横浜線の改札で待ってるね」と言われた。駅から祖父母の家まで徒歩20分かかるところをわざわざ迎えに来てくれるらしい。歩いて。祖父は病院に行っており、留守だと言われた。

 

「まっちゃん(祖父母は私をそう呼ぶ)、髪切ったのね」

合流してすぐ、祖母がそう言った。祖父母にあったのは今年の正月で、私が髪を切ったのは今年の2月だ。

 

私があまり長居出来ないことを伝えると、祖母は「じゃあどこかで食べましょう」と言った。

「駅前には何もないからね、ちょっと歩くけどいいかい?」

 

祖母に連れられて来たのはコメダ珈琲だった。「お友達とよく行くのよ」

 

私は昼を食べていなかったので、コメダグラタンを注文し、祖母はピザトーストを注文した。

「まっちゃん、何でも好きなもん食べていいからな」

「うん、何でも好きなもの食べるね」

祖母は孫にご飯をご馳走したいのだ。そういうわけにはいかない。私はもう小学生ではないのだ。

 

それからは祖母と話をした。主に自分がやっている仕事のことを話す。「まっちゃんはすごいねえ、大変でしょ」と事あるごとに相槌を打つ。

私は父方の祖母と普通に会話が出来ることに本当に感動してしまった。ついつい私はいろんなことを話す。その度に祖母は「すごいわねえ」とか「それは大変でしょ」とか、「〇〇は嫌ね」とか、話をしっかり聞いてくれていた。こんなに祖母と会話をしたことはたぶん人生で初めてだったと思う。

私の周りにいる老人の代表格である、母方の祖母は基本的に自分のことしか話さないし、半分ボケているのでもう会話が出来ないのだ。それに私はここ最近家にも帰っていない。両親ともまともに話していない。だからこそ、祖母との会話が一層楽しく、心地よいものに思えた。

 

私はおもむろに伝票と財布を持って立ち上がった。祖母が「あっ!あら!」と慌てていたが、気がつかないふりをした。

 

会計から戻って来ると、祖母が「嫌だよ〜まっちゃんにご馳走したいんだよ〜」と言いながら必死に千円札を握らせようとする。正直千円では足りない。

「いいんだよ、私だって働いてるんだからさ」

ゆっくりその手を押し返した。

 

「まさか、まっちゃんに奢ってもらえるとはね」

祖母がにこにこしながら言う。

 

「私も歳を取ったのね」

 

駅まで戻って来ると、祖父からちょうど病院から戻り、バスに乗っているとの電話が来た。

「ちょうどいいわ、お父さん、駅まで来て!まっちゃんが来てるのよ」

 

私たちは改札で祖父と合流した。

祖父は正月と何も変わっていない。にこにこしながら「元気か?」と聞いた。

私は頷く。

 

「そろそろ行かなきゃ、今日はありがとう」

「こちらこそありがとうね」

「まっちゃん、身体に気をつけてな」

 

そして2人と握手をした。

握手をしながら私はもうこんな日は2度と来ないだろうな、と思った。