おかえり

もどってきちゃったのでおかえりです

2月4日「私より先に泣いてはいけない」

3000円払ってカウンセリングを受けてきた。

昨年ぐらいから、ADHDに加えてASDも持っているんじゃないかという漠然とした不安が私を支配していた。なんとなく、会話がずれていて、噛み合わないことで、仕事に大きく支障が出ていたからだった。
先生曰く、ASDは対処療法だからカウンセリングを受けることでしか治せないらしい。先生を盲信している私は、そんなわけでカウンセリングを受けたのだった。

「事前にいろいろ(自分がままならなかった)事象を集めておくといいですよ」という先生のアドバイスに従い、手帳に怒られた時の状況やその時のままならなさを事細かに記しておいた。

カウンセラーは50代ぐらいの女性だった。
「今までカウンセリングを利用したことがありますか?」と聞かれたので、正直に学生時代に何度か、でも何を話せばいいのかわからなくて、と答えた。

「あら、もったいない。カウンセリングはなんでも話していいんですよ」とカウンセラーが微笑む。カウンセリングが始まった。

私は用意してきた手帳をもとに自分のままならなさと、その際に上司から言われたことを一気に話した。私が話終えるとカウンセラーが口を開く。

「失礼ですけど、その方っておいくつですか?」

今年で30と言ってたような気がします、と答えると、彼女は私が想像していなかった言葉を投げかけた。

「それはね、あなた30の人がほぼ同世代の部下に言っていい言葉じゃありません」

私は自分のカウンセリングが、思いもよらない方へ傾くのを感じていた。

「あなたからお伺いしたあなたの上司からの言葉はこれパワハラですよ。第三者で社会人経験が長い私が言うんだから間違いありません!」

その後も私が説明した事象に関して「これはパワハラです」「そんな言い方はありません」などの否定が延々と続く。彼女の目には涙が溢れ、ついには私にこう言った。

「あなた頑張りましたね、よく耐えましたね。」

いや、違うんです。それは私が言われたことが出来ていないから怒られているのであって、それが何度も注意されても出来ないから、こういうことになったんです。全ては私が悪いんです、と何度も何度も彼女の涙を否定した。

実際上司たちの言葉は明らかに正論であり、自分のままならなさに全ては端を発しているんだからパワハラという指摘はお門違いなのだ。そもそも自分のままならなさを具体的にどう解消できるかを相談したかったのであって、上司からのパワハラを相談したいわけではない。

しかし、私の否定を彼女は「あなたはもうその環境になれちゃってるんです」との言葉で更に否定してくる。これでは何の解決にもならない。

カウンセラーがひとしきり泣き、私の懸命な否定もむなしく時間が終わった。

「あなたはよく頑張りました。上司からの言葉で心を壊さないでください。」と言って、カウンセラーはまた微笑む。その笑顔を見て、非常に不愉快な気分になった。

けれども、このカウンセラーの「社会人経験がある」という言葉を信じるなら、私の退職に関して何かプラスに働いてくれるのではないか、という期待が湧いてきた。自分はとにかく退職したいわけだし、ここまで私に同情的なんだから何かしら力になってくれるのではないか、と思った。そういうことを考える自分は甘いのかもしれない。でも、そんなものにすがるくらいに、私は退職への道筋を探ることが出来ずにいる。

私は自分のままならなさや不甲斐なさで苦しんでいるのにどうしてどいつもこいつも、私の苦しみが外的要因から来るものだと決めつけて、勝手に泣いたりするのだろう。前に付き合ってた人もあのカウンセラーみたいに、勝手に私の苦しみを想像して泣いて、私の苦しみに飽きたときに「まきこちゃんは自分のことばっかりだね」という言葉を残して私をあっさり遠ざけたのだった。

私より先に泣かれたら、私はいつ泣けばいいんだよ、私は私の不甲斐なさやままならなさで泣きたいのに、勝手に外的要因のせいにしないでくれよ。

貴重な土曜日の午後、いつもより遠くの薬局で薬をもらいながら、「こういうのが感動ポルノか……」と一人納得していた。終わりのない冬と自分の無力さだけが、一寸先の未来を縛り付けているような気がした。