副音声

名前変えました

9月7日「世界で一番好きだった人の寄せ集め」

このエントリは、架空の抱かれたい人ランキングの1位(という体)で書いております。

そのため、いきなりここから読んでも混乱すると思うので、過去2つのエントリを先にお読みくださることを推奨します。

 

この記事はフィクションです。実際の人物を何人かモデルにはしていますが、実在の人物および団体とは一切関係がありません。これ、自分のことかな?と思っても他人の空似です。実在しません。そういうことにしておいてください。

 

めちゃめちゃ抱きたい人を考えた時に、会社の経理の人とか、本郷奏多似の取引先とか、いろんな人が浮かんでは消えていったけど、やっぱり一番最初にちゃんと好きだった人なんじゃないかという結論に達する。

 

世界で一番好きで忘れられない人の寄せ集めをすると、なんだかすごく気持ち悪くてサイボーグみたいな人物が出来上がってしまう。なんていうかそういう作業ってすごく惨めでどうしようもない気持ちの上に立っているし、思い出すだけで自然と涙が出てしまう。そういうものなのかもしれない。

 

その人は早稲田の文学部で西洋史を専攻していた。塾講師をしていた時にバイトの先輩としてお世話になった人だ。

和歌山県出身なのでずっと関西弁で喋る。大学になって初めて上京してきたので、関西弁の方が親しみやすいし、長いのだ。

 

「よくインドに行くと世界が変わるって言いますよね?A先輩がインドに行った時、『全然変わらなかった、普通だった』って言ってて、その時に『この人いい人なんだな』って思ったんですよ。」

 

私にしてくれたたくさんの話の中でこの話が一番好きだった。彼はどこかひねくれていて、それでいて、一方では素直だった。毎日シフトに入っているのはお金を稼いで、長期休みの時に海外に行くからだ。ヨーロッパはほとんど巡った後、東南アジアを制覇したいと話していた。

 

私は彼のことが本当に好きだったんだと思う。私が月曜日の13時に一番乗りで塾に来ると、彼はいつもyoutubeで前回の「バナナマンのバナナムーンGOLD」を流しながら寝ている。だから月曜日の最初の仕事は彼を起こすことだった。(ちなみにこれが水曜日になると「伊集院光 深夜の馬鹿力」になっている。起こすのは変わらない)塾にほとんど来なかった塾長の代わりに彼が塾の経営まで任されていたのである。

 

塾長の下にいた教室長はころころ変わった。みんあどうしてか30代の女性ばかりで、みんな彼のことを好きになった。彼にはどうしようもないくらい魅力があったのだ。「あの子って彼女いるのかな」、赴任して1週間も立たないうちに必ずみんな聞いて来る。私はそのたびに「どうですかね?」と首を傾げた。

 

よく過去の恋愛について女は「上書き保存」男は「新規作成」なんて聞くけど、一概にそうじゃないと思うんだよね。私の中では一緒に行った「サンシャイン水族館」も「東京タワー」も、「東京国立博物館」も高田馬場にある「チャイカ」も「麺爺」も自由が丘のインドカレー屋さんも、自由が丘の”ベネチア”も、府中本町にあったイタリアンも、新宿の「ホテルアトラス」も全部上書きなんかされてない。たぶんいくら違う人と何回も行ったところで思い出は上書きされない。彼が話したたくさんの話も上書きされない。

 

「私のことどう思いますか?」

 

暗くなった上野公園で、彼は私の問いかけに答えようとしなかった。私は踵を返して、街灯を頼りにJR上野駅まで歩いたんだった。塾はその日のうちに辞めた。

 

「塾はたたむことにしました~!今度は赤羽でJKリフレやりま~す!まきこちゃんってエクセル使える?」

 

どうして私は、彼のLINEも塾長からのLINEもブロック出来ないんだろう。私からLINEをすることなんてもう2度とないのに。